十和田にシナイモツゴ!?

2008122

3E 長船裕紀

はて!? 題名であるが、なぜ十和田「の」ではなく十和田「に〜!?」なのか。

去年の如月の出来事である。

が十和田市内のある水路で、魚獲り(通称ガサガサ)をしていたら、ある魚が獲れた。

モツゴ!?

しかし何だか違う。モツゴの仲間であることは間違いない!!

そしてすぐ、その雰囲気からシナイモツゴを想像させた。

しかし、私はこの目で実際にシナイモツゴを見たのは水族館だけで、あとは図鑑などの本でしか見たことがなかったので、確信はもてなかった。

何より、シナイモツゴは青森県下では青森市でしか確認されていないのだ。

まさか新生息地、発見!?

その瞬間、浮き立つ気持ちがいっぱいの私は、同じ魚を獲りたい一心で、(採集地点の)水路の上流から調べることに必死になった。

ところが、上流といっても源流まで大して距離が無いことが判明したのである。

最初の採集地点から上流50メートルほどで、何やら施設にたどり着いた。

水産試験場(正しくは青森県水産総合研究センター 内水面研究所(図1))ではないか!!!

その敷地全体を歩いてみたところ、試験場奥手が湧水(白上の湧水)となっており、その湧水を試験場が利用するといった立地であり、水源地から、あるいは数個の「池」を経て水路に流れるといった具合であった(図2)

・・・・・

ふむ!!! 「もしかして!」「なるほど!」

なんと試験場の方にお聞きしたところ、過去にシナイモツゴを飼育していたのである。さらに、当初から池に放していたのだった。つまり、その池から流れ出る水路に、シナイモツゴが泳いでいることはもっともな話だったのだ。

図1.青森県水産総合研究センター 内水面研究所、案内地図

図2.研究所構内配置図

ここで、モツゴについて簡単に説明しておく。

日本に生息するモツゴは3種、モツゴ・シナイモツゴ・ウシモツゴである。

モツゴPseudorasbora parva コイ目コイ科

分布は国外では中国、朝鮮半島、台湾など。国内での分布は、北海道から沖縄まで。

     もともとの自然分布では関東以西の本州、四国、九州だったがコイやフナ、アユなどの種苗に混じって各地に放流されたことで人為的に各地に広がった。

全長は8cm。細長い紡すい形で、扁平。体色は黄褐色から鈍い金属光沢、産卵期のオスは黒み帯び追星ができる。口ひげはない。側線は完全、縦条が見られる。幼魚では縦条が顕著(図3)。別名クチボソと呼ばれ、受け口で小さな口をしており、釣り人からは、エサだけ持っていかれる理由で嫌われている。

生息場所は河川の中流から下流、細流や用水路などの流れの穏やか場所、池や湖などの止水域にも生息する。水質汚濁に比較的強く、都市近郊や下水が流入する流域でも確認ができる。

食性は水草や付着藻類、ユスリカやイトミミズ、底生動物などで雑食性。

繁殖期は4〜8月。ヨシや竹、石面などに卵を産みつけ、オスが保護する。

それほど美味ではないが、冬期に佃煮などで食される。

図3.モツゴの幼魚

ウシモツゴPseudorasbora pumila subsp. コイ目コイ科

■説明(モツゴとの違い)

分布:濃尾平野に分布していたが、現在では岐阜県養老郡と豊田市の2ヶ所といわれており、日本の淡水魚の中でも、きわめて絶滅の危険性が高い種である(環境省レッドデータブック 絶滅危惧TA)。

形態:全長は7cm程度。側線が不完全で有孔鱗は4枚程度。縦条は見られない。モツゴに比べ全体的にずんぐりしており、鱗がやや大きく、尾びれの切れ込みの湾入が少ない。

生態:産卵期はモツゴより1ヶ月ほど早い。ほか、モツゴと同じ。

他、モツゴ、シナイモツゴとほぼ同じ。

シナイモツゴPseudorasbora pumila pumila コイ目コイ科


■説明(モツゴとの違い)

分布:名前は宮城県の品井沼で、大正5年に初めて採集されたことに由来する。かつては関東地方から東北地方に広く分布していたが、現在では新潟県、青森県、秋田県、宮城県に局所的に残るのみ。多くの地域で絶滅した。

(環境省RDB 絶滅危惧TB2007年環境省レッドリスト 絶滅危惧TA

形態:側線が不完全で有孔鱗は4枚程度。モツゴ同様、縦条がみられメスでは明瞭。オスの婚姻色はモツゴより濃い傾向がある。また、背びれと尻びれは丸みがあり、尾びれの切れ込みの湾入が少ない。

生態:モツゴとほぼ同じ。

生息場所:モツゴより止水域を好む。

     絶滅の危機に追いやった理由

     モツゴの人為的な分布の拡大によって、シナイモツゴの生息地へのモツゴの侵入による競合。また、容易に交雑し徐々にモツゴに置き換わっていく。

     生息地の護岸工事、古い溜め池の消失や放置、改修と同時に水質の悪化。

     ブラックバスやブルーギルの肉食性外来魚の侵入による被害

さて、  ところで、十和田の水路になぜシナイモツゴがいたのか、その経緯がわかったところで以下の疑問がわいた。

ア)なぜシナイモツゴを飼育していたのだろうか

イ)どこの個体群から連れてきたシナイモツゴなのか

ウ)現在でも健全な繁殖を繰り返しているのか

エ)そもそも、純血が保たれているのか

疑問解消のため、研究所の方にお聞きしたところ、大体のことが把握できた。

まず、わかりやすくするため、青森県におけるシナイモツゴについて簡単な年表にまとめた。

1994年     県青森平野(又八沼)で初めてシナイモツゴが確認。

          以後、同平野にて数ヶ所で生息が確認された。

199510月   又八沼産シナイモツゴを内水面研究所(十和田市)にて飼育開始。

1996年〜    内水面研究所、  13尾 人工繁殖

                  100尾 構内の池へ投入(自然繁殖)

2000年     油川町会を中心とした「シナイモツゴを守る会」が設立。

1031日    「又八沼に生息するシナイモツゴ」が、青森市の教育委員会により市指定文化財(天然記念物)に指定。

20045月   内水面研究所、継代飼育個体821尾を青森市へ戻す。

20056月   内水面研究所、残っていた継代飼育個体126尾、構内の池へ投入(同時に研究所での飼育は池のみに)

20063月   「青森県の希少な野生生物−青森県のレッドリスト−」 シナイモツゴ ランクA(図5)

現在に至る。

ア)イ)について

つまり研究所で飼育していたのは、青森市又八沼産とのこと。そして、飼育の理由としては「分散」である。青森平野の生息地は、すでにブラックバス等外来魚が確認されており、また近隣でモツゴも確認されていることから、気づいたときにはシナイモツゴ(純血)がいなくなっていたなんてことも考えられるのである。

ウ)エ)について

 後に私自身水路にてシナイモツゴを計8尾採集できたことと、研究所の方のお話では繁殖は繰り返されているという見解で純血とのこと。ただし、外見はシナイモツゴであったが、95年、05年に構内の池への投入後、遺伝子解析を行っていないので、遺伝子レベルでの純血は断言できない。

〜これから〜

 十和田市(白上)にもシナイモツゴが生息している事実は、公には公表されていないが、これまでの経緯から現在、十和田市にもシナイモツゴが生息していることに間違いはない。

いったいこの“又八沼由来十和田市育ち”のシナイモツゴをどう扱うべきなのか。そもそも、他地域から連れてきたシナイモツゴは、安易に自然には話してはならなかったのかもしれない。しかし既に過ぎてしまったことなので、良し悪しについてこの場では語らない。

時点では、内水面研究所では特にモニタリングはやっていないらしい。その理由までは知らないが、私は十和田市のシナイモツゴを調査する必要性を感じる。種として希少であることは無視できないからだ。

 ただし調査するということは、明確でなくとも、それなりの目的とそれに順ずる計画が必要である。

では、なぜ調査が必要か。十和田市のシナイモツゴを人為的分布としての見方を無視し、絶滅に瀕した種の保護として考えれば、何となく調査の必要性を説明できる。それは同時に、シナイモツゴの新生息地の確立をも意味している。明らかな、人為的分布なので保護の意義を問われるかもしれないが、あくまでも種の保護のためだ。まずは現状を把握するための調査が必要だ。

  調査項目

1.年表づくり

2.白上のシナイモツゴ生息地の流域調査(地図作成)

3.同流域および近隣のモツゴの生息調査

4.生息池の水質等、環境調査

5.シナイモツゴの遺伝子解析

6.その他取り組み、社会的啓発

1.年表づくり

前に簡単な年表で示したが、ほぼこの状況しか把握できていないので、もっと詳しく。又八沼から内水面研究所へ持ってきた時は、又八沼を外来魚駆除の目的で、日干しを行ったときでもあった。その他、研究所での飼育個体は又八沼産だが、その後研究所から青森市へ戻した際は、又八沼へ戻されたとは限らない。(いつ干して、いつ連れてきて、いつ戻して、どこに放したか)

2.白上のシナイモツゴ生息地の流域調査(流域地図作成)

 まず調査を行う上で、調査地の地図を用意することは必須。

簡単な地図を添付した。これは、土地改良区からいただくことができた。

図4. 白上のシナイモツゴ生息流域地図(大光寺幹線用水路) 

内水面研究所構内の水源地と1号池から排水路へと向かい(図2)、いずれ大光寺幹線用水路(太線)に合流したあと相坂排水門(地点A)・畑刈排水門(地点B)を通じて奥入瀬川へと注がれる。

研究所構内から流れる排水路(以下、排水路)大光寺幹線用水路と合流する地点は、地点Aより上流であることは確かだが、現時点では明確な合流地点把握しきれていないので今後、調査を必要とする。

3.同流域および近隣のモツゴの生息調査

 シナイモツゴの「絶滅の危機に追いやった理由」でも記したように、シナイモツゴの絶滅原因の一つに、モツゴの生息地の拡大があげられている。すでに青森県の各地でモツゴが確認されていることから、十和田市のモツゴの生息調査、特に2.で作成したシナイモツゴの流域地図を用い調査が必要である。

 ところがこれまでの調べで、すでに奥入瀬川にモツゴが生息していることがわかり、よって奥入瀬川から取水している大光寺幹線用水路に、モツゴが生息していても不思議ではないことから、シナイモツゴの純血のみの生息は排水路が、大光寺幹線用水路と合流するまでと考えられる。

 その他注目したいのは、排水路から大光寺幹線用水路の合流地点の構造である。構造しだいでは、モツゴが大光寺幹線用水路から排水路へと遡上し、排水路までシナイモツゴの純血場を奪うことになるからだ。

今後、それぞれの水路の構造や季節ごとの水深、流速、モツゴの耐流速能力などの調べが必要かもしれない。

4.生息池の水質等、環境調査(生息適地評価)

 あくまで主となる繁殖地は、当初にシナイモツゴを投入した池なので、現在その池がシナイモツゴにとって、繁殖活動に問題のない健全な生息環境であるのかどうかも、調べておく必要があるだろう。おそらく、研究所で維持管理等は行われていると思われるので、研究所のデータを使わせていただければ幸いである。

5.シナイモツゴの遺伝子解析

 池内のシナイモツゴが純血でなければ、調査の意義は半減する。年表にも記したように、最初の投入から10年以上も経過しており、誰かがモツゴを何気なしに放流している場合も考えられるので、一度純血かどうか遺伝子解析をしてみたいところだ。

 また、ここのシナイモツゴが純血でなければ意味は無いのだが、遺伝的形質の解析も行いたい。例えば、希少な淡水魚の増殖のための水槽内の継代飼育では、遺伝的多様性の低下や遺伝子組成の変化、ひいては形質の変化の起こる可能性が高いと指摘されている。研究所の飼育繁殖の結果、13尾から増えた個体のうちの821尾を青森市へと戻しているが、限られた親の数で繁殖・飼育を続けていた場合、遺伝的多様性の低下が懸念される。この多様性の変化を調べるためにDNA多型解析を行い、青森市へ戻した821尾の行き先を調べた上で、白上のシナイモツゴと青森市のシナイモツゴの遺伝子比較をして、それぞれの集団の遺伝的多様性の確認を行い、多様性の維持や今後の繁殖方法の検討ができればと思う。

6.その他取り組み、社会的啓発

 地域住民が、シナイモツゴが極めて希少な淡水魚であることを、知っているはずもなければ、そのシナイモツゴが、十和田市に生息するかたちとなっていることなど知る由もない。だが、今後このままの状態を放置していていいのだろうか。ついにシナイモツゴは、去年の見直された環境省平成19年レッドリストでは、絶滅危惧TBから絶滅危惧TAへと格上げされている。なにかしら、活動を講じた方がよさそうだ。

 研究所等公的機関のみならず、地域住民の方や小中高、大学など学校での環境学習としての取り組みも悪くはなさそうだ。ただ、どのような手段、方法で啓発すべきなのか最善の選択はむずかしい。シナイモツゴの希少性や、安易な場所の公表は、マニアや業者による乱獲、外来魚(国内種含む)の密放流などを誘発しかねないからである。まずは、有志者で十和田市シナイモツゴの会(仮称)をつくってみるのもよいかもしれない。ゆくゆくは定期的な調査やさまざまな動態の把握が可能となり、そして健全な管理体制が整うことを切に願う。

〜最後に〜

 これから取り組んでいく上で、方法論は大切ですが、あくまでも方法論であって本質的な重要性は乏しい。大事なのは、活動する人々が目的と将来のビジョンをある程度共通認識として持っている必要があると思う。

しかしこれ書く際、私自身目指す方向性というものが、シナイモツゴの保護なのか、環境も含めた保全なのか、未だ定まっているわけではない。最終的にはシナイモツゴの生息地を隔離するだけかもしれないし、もともと、人為的なものだから意味はありませんってことで終わってしまうかもしれない。

それでも、私は環境と生き物を人生のキーワードに生きていくと決めており、それゆえ白上のシナイモツゴが頭から離れなかったのが、この活動のきっかけである。

 私は淡水魚が好きなのだ。好きだから、偶然ではなく必然的にシナイモツゴに出会えたのだ。そんな、淡水魚好きの自分とシナイモツゴに感謝する。

■参考・引用文献、ホームページ

青森県水産総合研究センター内水面研究所 要覧

青森県 2007 「希少野生生物保護・保全対策報告書」

青森県 2000 「青森県の希少な野生生物−青森県のレッドデータブック−」

青森県 2006 「青森県の希少な野生生物−青森県のレッドリスト−」

()リバーフロント整備センター() 「川の生物図鑑」〈山海堂〉

森文俊・内山りゅう 「淡水魚」〈山と渓谷社〉

多紀保彦・河野博・坂本一男・細谷和海 監修 「原色魚類図鑑」〈北隆館〉

宮地三郎・川那部浩哉・水野信彦 「原色日本淡水魚図鑑」〈保育社〉

青森県水産総合研究センター内水面研究所

http://www.pref.aomori.lg.jp/suisan/naisuimen/

栃木県水産試験場 http://www.pref.tochigi.jp/suisan-s/index.html

東京農業大学 http://www.nodai.ac.jp/

シナイモツゴ郷の会 http://www.geocities.jp/shinaimotsugo284/

図6. 小学生と魚獲り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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